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2026年09月30日

4,500万人の身分証は「委任」を運べるか ― 韓国モバイルIDが直面する、普及率4.4%という現実

4,500万人の身分証は「委任」を運べるか ― 韓国モバイルIDが直面する、普及率4.4%という現実

何が起きたか

ラオンセキュアとGDINが共同主管した「2026ブロックチェーン&AIハッカソン」は、9月30日にソウル・汝矣島で決選を終えた。参加は318チームで、前年から50%以上増えている。テーマは、モバイル住民登録証や運転免許証といった国家モバイル身分証を使い、本人の身元・資格・権限を確認するサービスである。

大賞の「パスカル」チームは、本人・保護者・社会福祉士の権限と、同意・委任の関係をモバイル身分証で検証し、福祉サービスの進行過程をブロックチェーンに記録する構造を提案した。ほかにも、高齢者の福祉申請の委任、障害者の単独署名、映像の真正性証明、AI創作物の履歴管理など、「誰が誰の代わりに何をしてよいか」を扱う案が目立った。行政安全部は10月1日から30日まで、民間向けの「2026モバイル身分証アイデア公募展」も開催している。

盛り上がりの裏にある数字

一方、同じ10月1日、国会行政安全委員会の議員が行政安全部の提出資料をもとに問題を提起した。モバイル身分証の登録に必要なIC住民登録証の発行者は、8月末時点で約197万人にとどまる。発行対象者約4,501万人のわずか4.4%である。

年齢差も大きい。17歳の初回発行が無料の10代では発行率が47.0%に達する一方、60代は1.8%、70代は0.9%、80代以上は0.3%にすぎない。月平均の発行は約12万人で、このペースでは全国民への普及に約30年かかる計算になる。さらに、システム構築・運用に506億ウォンを投じたにもかかわらず、行政安全部は利用件数や真偽の検証件数を把握していないと答弁した。

構造的な問題:最も必要な層に届いていない

ハッカソンで評価されたのは高齢者福祉や代理申請といった「委任」のユースケースである。しかし、その恩恵を最も受けるはずの高齢層ほどIC身分証を持っていない。技術的には、DID(分散型ID)の上に委任関係を記録する設計は成立する。だが、発行という物理的なボトルネックが社会実装の最大の壁になっている。

また、利用統計が取れていないことは、ブロックチェーンを使ったIDの価値を政策的に説明できないことを意味する。検証履歴を改ざんできない形で残せることが分散台帳の利点のはずだが、その記録が運営側の評価に使われていない。

日本への示唆

日本ではマイナンバーカードのスマートフォン搭載が進んでいる。韓国の事例は、「誰がスマホにIDを入れられるか」という発行の壁と、「何に使うか」という用途の壁が別物であることを示している。本人確認だけでなく、家族や介護者、専門職による代理・委任の証明は、高齢化が進む日本でこそ需要が大きい。ただし、その実装にはIDの普及設計と利用ログの設計をセットで考える必要がある。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 国家IDの次の需要は「本人確認」ではなく「委任・代理権の証明」にある。介護・福祉・相続など、本人以外が手続きする領域でVC(検証可能クレデンシャル)を設計できる事業者に先行優位が生まれる。
  2. ID事業の成否は技術より発行チャネルで決まる。高齢層への物理的な発行支援(窓口、訪問、家族経由の登録)を組み込んだサービス設計が、利用率を左右する。
  3. 利用・検証ログを最初から経営指標として設計すべきである。統計を取れないIDインフラは予算の正当化に失敗する。分散台帳の監査性を、運営KPIに転用する発想が要る。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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