Open USD(OUSD)が稼働 ― 準備金の利回りを「発行体が抱える」から「流通させた企業に配る」へ、ステーブルコインの収益構造が書き換わる

何が始まったのか
OUSDは2026年9月30日、Base、Ethereum、Solana、Tempoの4チェーンでネイティブ発行を開始した。発行体はStripeが2024年に約11億ドル(約1,740億円)での買収を発表したBridgeで、準備資産はBlackRock、BNY、Lead Bankで管理され、月次のアテステーション(第三者による残高確認)を公表する。企業はCoinbase、Mastercard、Stripe、Visaの各入口から、1ドル=1 OUSDの比率で手数料なしに発行・償還できる。稼働日にはStripe、BVNK、Visaのステーブルコイン基盤が使え、Coinbase経由は10月1日に始まった。上場先はCoinbase、Kraken、Uniswapである。創設5社は今後数カ月で10億ドル超(約1,580億円)の流動性を投じると表明した。参加企業は6月の構想発表時の140社超から200社超に増え、最近ではSBIホールディングス、UBSなどが加わった。
収益モデルの核心
既存の二大ステーブルコインと比べると、OUSDの特徴がはっきりする。Tetherは準備資産の運用収益の多くを発行体が保持する。CircleはUSDCの収益を流通パートナーと個別契約で分け合い、2025年の上場申請書類によれば、Coinbaseは残余の準備金収益の50%を受け取る。2024年のCircleの売上・準備金収入は約17億ドルだったのに対し、純利益は約1.56億ドルにとどまった。流通を握る側が収益の大半を得る構図である。OUSDはこの分配を個別交渉ではなく全参加者に共通のルールで行う。報酬は各社のプラットフォームで生まれたOUSDの供給量と取引活動に比例し、創設5社にも優遇枠はない。さらにOpen Standardの株式の大半を、4〜5年かけて創設企業と参加企業へ配る計画である。流通に貢献するほど、収益と会社の持分の双方が増える設計といえる。
「配る」ことの経済的な前提
配分の原資は、国債などで運用する準備資産の利息である。残高100億ドルなら、利回り1%あたり年1億ドルの収益が生まれる計算になる。ただし、手数料ゼロの発行・償還、資産管理、監査、コンプライアンス、流動性供給のコストはこの利息から先に賄われる。配分できるのはその残りであり、金利が下がれば原資も縮む。配分率と算定式、株式を受け取るための最低基準は公表されていない。参加企業は、この数字が見えないまま自社の流通を差し出すことになる。なお、2025年7月に成立した米国のGENIUS法は、発行体が保有者に利息を払うことを禁じている。利回りを保有者ではなく流通を担う企業に回すOUSDの仕組みは、この規制の枠内で利回りを分配する方法ともいえる。
課題と日本への含意
課題は統治である。競合関係にある200社超の利害をどう調整するのか、意思決定が機能するのかを疑問視する声がある。Open Standard側は、経営陣が会社を運営し、参加企業とは貢献に応じた報酬で利害をそろえるのであって合議体ではないと反論している。6月の構想発表時には、主要なUSDCパートナーが競合ドルを支持したことでCircle株が売られたとも報じられた。Bridgeは2026年2月、米通貨監督庁(OCC)から国法信託銀行の条件付き承認を得たと発表しており、規制上の足場も固めつつある。日本では、ドル建てステーブルコインの国内流通には電子決済手段等取引業者による取り扱いが必要になる。SBIホールディングスがOUSDを国内でどう使うかはまだ示されていないが、送金・決済事業者にとっては「流通させれば準備金収益の分配を受けられる」という新しい収益源の選択肢が現れたことになる。
【事業開発に関するインサイト】
- ステーブルコインの経済価値は、発行よりも流通の接点に集まりつつある。国内の決済事業者、交換業者、銀行は、自社でステーブルコインを発行するかどうかに加え、自社の顧客基盤を「流通量」として外部の発行体に提供し、その対価として収益分配を受ける選択肢を比較検討すべきである。比較の際は、配分率の開示状況、算定式、契約期間を交渉の前提条件として確認する必要がある。
- 準備金収益の分配は金利水準に直結する。発行・償還手数料ゼロや分配の約束は、金利が低下した局面で最初に見直される。円建てステーブルコインやトークン化預金を設計する金融機関は、平均残高、運用利回り、発行体の固定費から損益分岐点を試算し、低金利シナリオでも成り立つ分配設計とすべきである。
- 「流通させた者に報いる」ネットワーク型の設計は、円建てのステーブルコインでも応用できる。発行体単独では加盟店やウォレット事業者の獲得が進みにくいため、貢献度に応じた収益分配や持分付与を組み込んだ連合型の発行体スキームは、国内の銀行・決済事業者の協業モデルとして検討に値する。その際、日本の電子決済手段の規制の下で、利用者ではなく事業者に分配する仕組みが許容されるかを当局と早期に整理する必要がある。
【引用:出典】
OUSD is live.(The Open Standard) — https://joinopenstandard.com/blog/ousd-is-live New stablecoin Open USD goes live as Coinbase, Mastercard, Stripe and Visa commit $1 billion to liquidity(CoinDesk) — https://www.coindesk.com/business/2026/09/24/open-usd-takes-on-tether-circle-with-a-different-stablecoin-model-that-s-building-money Open Standard launches OUSD stablecoin backed by Coinbase, Stripe, Visa, and Mastercard(Crypto Briefing) — https://cryptobriefing.com/open-standard-ousd-stablecoin-coinbase-stripe-visa-mastercard/ Stripe-owned stablecoin platform Bridge wins conditional OCC approval for national bank charter(The Block) — https://www.theblock.co/post/390263/stripe-stablecoin-bridge-wins-conditional-occ-approval-national-bank-charter Coinbase Takes 50% Share of Circle's Residual USDC Reserve Revenue: Filing(Decrypt) — https://decrypt.co/312757/coinbase-circles-residual-usdc-reserve-revenue-filing GENIUS Act, S.1582, 119th Congress(Congress.gov) — https://www.congress.gov/bill/119th-congress/senate-bill/1582 Open USD(OUSD)が稼働(Onchain Finance Media) — https://onchain-finance.media/articles/open-usd-revenue-sharing-model
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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