吉本がIPをデジタル証券で資金調達へ ― 「製作委員会」の次に来るエンタメ金融の設計

発表の骨子
2026年10月14日、SBIホールディングスと吉本興業ホールディングスは、エンターテインメント領域での戦略的業務提携に基本合意したと発表した。中心となるのは、設立予定の合弁会社である。合弁会社はグローバル市場向けのオリジナルIPを企画・開発し、投資も行う。資金面では、SBIグループのST基盤とオンチェーン金融のノウハウを使い、IP・コンテンツの新たな資金調達手法を作るとしている。
あわせて、1,000億円規模の「SBIネオコンテンツ投資事業有限責任組合」の組成も示された。投資対象は映像作品、ライブエンタメ、スポーツ、デジタルコンテンツで、吉本興業HDも出資する予定だ。吉本は所属タレント・アスリート約6,000人を抱え、バラエティ、映画、アニメ、ゲーム、VTuber、縦型ショートドラマなどで制作力を提供する。SBIはアジア・中東などのネットワークを使い、番組フォーマット、公演、グッズの海外展開を支援する。
なぜデジタル証券なのか
日本の映像・アニメ制作は長く「製作委員会」方式で資金を集めてきた。複数の企業が出資してリスクを分け合う一方、出資持分は流通せず、一般投資家が参加する余地はほとんどなかった。デジタル証券を使えば、作品やIPから得る収益の権利を小口化し、個人を含む幅広い投資家に販売できる。発行後に売買する経路も設けられる。
先例はある。2024年7月には、映画『宝島』の製作委員会への出資持分をデジタル証券にし、フィリップ証券が小口で販売する計画が発表された。配当に加えて、特典映像や試写会招待などの「ファン特典」を組み合わせた設計だった。SBIは2026年3月に、100億円の「SBI START債」をBOOSTRYの「ibet for Fin」で発行し、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)のPTS「START」で売買できるようにしている。発行から流通までの基盤をすでに自前で持っている点が強みである。
市場と政策の追い風
Progmatの「デジタル証券マーケットアウトルック2026」によると、国内のデジタル証券の案件残高は2025年末で約5,831億円、累計75件に達した。ただし主力は不動産で、コンテンツ分野はまだごく小さい。政策面では、政府が2025年6月の閣議決定で「2033年までに日本発コンテンツの海外売上20兆円」という目標を掲げている。経済産業省も2026年3月に、民間投資33.3兆円などを目標とする計画の骨子案を示した。IPへの投資資金の供給は、国の重点領域になっている。
残る論点
合弁会社の名称、出資比率、設立日、使うデジタル証券基盤とチェーン、最初の対象作品はいずれも開示されていない。コンテンツの収益は不動産の賃料と違って変動が大きく、ヒットするかどうかの不確実性が高い。そのため、個人投資家への説明と、収益分配の透明性が商品設計の成否を分ける。
【事業開発に関するインサイト】
- IPのデジタル証券化は、資金調達とファンづくりを同時に行う手段になりうる。配当に加えて体験型の特典を組み込む設計は、エンタメ企業だけでなく、スポーツクラブや地方の観光資源にも応用できる。
- 不動産以外の資産をデジタル証券にするには、収益の見積もりや権利関係を整理する専門機能が欠かせない。IPの評価、権利処理、分配計算を支える周辺サービスは、まだ担い手が少ない領域である。
- 1,000億円のファンドとデジタル証券の組み合わせは、機関投資家の資金と個人の資金を同じIPに呼び込む二層構造を示唆する。両者の利害を調整するガバナンス設計が、今後の差別化要因になる。
【引用:出典】
SBIホールディングス ニュースリリース(2026年10月14日) https://www.sbigroup.co.jp/news/2026/1014_16660.html SBIホールディングス 発表資料PDF https://www.sbigroup.co.jp/news/pdf/2026/1014_a.pdf あたらしい経済 https://www.neweconomy.jp/posts/616840 CoinPost https://coinpost.jp/?p=742891 Digital Today https://www.digitaltoday.co.kr/en/view/114747/sbi-yoshimoto-plan-joint-venture-to-add-fintech-to-japan-content koubo.jp(SBI START債) https://koubo.jp/article/57281 ScanNetSecurity(映画『宝島』ST) https://scan.netsecurity.ne.jp/article/2024/07/25/51361.html CoinPost(Progmat デジタル証券マーケットアウトルック2026) https://coinpost.jp/?p=678452 AdverTimes(コンテンツ政策) https://www.advertimes.com/?p=539422
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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