銀行口座から円ステーブルコインへ直結 JPYC×SBJ銀行×LINE NEXTが「オンランプ」の主導権を銀行側に戻す

3社の役割
今回の覚書は2本立てです。1本目は3社による「口座連携型チャージ機能」の概念実証(PoC)に向けた協業です。SBJ銀行が銀行口座と銀行インフラを、LINE NEXTがUnifiなどのデジタルウォレットとブロックチェーン技術を、JPYC社が発行体として発行・償還機能の技術支援を担当します。口座の連携からステーブルコインの発行、ウォレットへの反映までの流れを技術と運用の両面で設計し、サービスとして成り立つかを確かめます。2本目はSBJ銀行とLINE NEXTの2社間の戦略的提携で、PoC後に送金・決済を含む新しい金融サービスの事業化や共同プロモーションを協議します。実証の時期は示されておらず、チャージ機能の一般提供が決まったわけではありません。
なぜ「口座直結」が重要か
JPYCは2025年8月に国内初の資金移動業者として登録を受け、日本円ステーブルコインを発行してきました。LINE NEXTとは2026年1月に協業検討の基本合意を結び、その後Unifiで実際にJPYCを使えるようになっています。ただ、利用者がステーブルコインを手に入れるには、発行体への振込や交換業者の経由など手間が多く、普及の最大の障壁になってきました。銀行口座からウォレットへ直接チャージできれば、利用者にとってはスマホ決済のチャージとほぼ同じ体験になります。普段使うLINEアプリの中でそれが完結する点も大きな意味を持ちます。
銀行側から見た計算
SBJ銀行にとっては、自行の口座をステーブルコインの「入口」に組み込むことで、Web3の利用者との接点と送金・決済の手数料機会を得られます。預金の流出を防ぐことにもつながります。ステーブルコインが銀行預金を外へ流出させるという懸念は米国で強く議論されてきました。今回の構図は逆で、銀行が流入経路を握る形になっています。一方、発行体のJPYC社は、裏付け資産の運用益を収益源としつつ、銀行口座と直結する発行経路を整えることで流通量を拡大できます。ここで注意すべきなのは、チャージの手数料やシステムの運用コストを誰がどう負担するのかがまだ公表されていない点です。収益の構造が持続できるかどうかは、実証で確かめるべき論点です。
新韓グループの「両面戦略」
SBJ銀行は2009年設立の国内銀行で、新韓金融グループに属しています。同じ10月21日には、新韓グループのカード会社シンハンカードとSBI VCトレードなどが、円建てステーブルコインの実店舗決済や日韓間の国際決済での協業を検討する基本合意を結びました。一方は口座からの入金、もう一方は加盟店での支払いと、円ステーブルコインの入口と出口の両方に新韓グループの関与が見えます。日韓間の送金・決済の回廊を見据えた布石と読むこともできます。
次の焦点
今後の焦点は、実証で確認される処理の流れと、本人確認やマネロン対策の責任をどう分担するかです。銀行口座と結びつくことで、ステーブルコインの利用者確認は銀行の本人確認を使う形になる可能性があり、ウォレット側の負担を減らせるかどうかも注目点になります。
【事業開発に関するインサイト】
- ステーブルコイン普及の鍵は「発行」ではなく「入口」です。銀行口座から直結するチャージ経路を持つ銀行は、利用者接点と取引データを握る立場に立てます。地方銀行やネット銀行にとっても、ステーブルコインは預金を奪う脅威ではなく、自行口座の利用頻度を高める手段として設計できます。
- 1つの発行体と1つの銀行を個別のAPIでつなぐ形は、参加者が増えるほど組み合わせが膨らみます。複数の銀行・発行体・ウォレットを標準化された仕組みで束ねる接続基盤(チャージ・償還のハブ)には、インフラ事業として需要が生まれる可能性があります。
- 海外の金融グループが日本の円ステーブルコインの入口(銀行口座)と出口(加盟店決済)の両方に関わり始めています。国内の金融機関は、日韓回廊を競合の動きとして見るだけでなく、為替・送金・加盟店網のどこで自社が組めるかを早めに洗い出すべき段階です。
【引用:出典】
CoinPost「JPYC、SBJ銀行・LINE NEXTと覚書 口座連携チャージ実証へ」 https://coinpost.jp/?p=744198 あたらしい経済「JPYC・SBJ銀行・LINE NEXTが覚書、銀行口座とウォレットをつなぐJPYCチャージ機能実証へ」 https://www.neweconomy.jp/posts/619021 JinaCoin「JPYC、SBJ銀行・LINE NEXTと提携──銀行口座からのチャージを実証へ」 https://jinacoin.ne.jp/jpyc-sbj-line-20261021/ BloomingBit「新韓銀行の日本法人SBJ銀行、円建てステーブルコインの実証推進」 https://jp.bloomingbit.io/feed/news/122648 plus web3「JPYCなど3社が銀行口座連携を実証へ」 https://plus-web3.com/media/latestnews_1000_11161/ CoinPost「SBI VCトレード、韓国カード大手Shinhan Cardと提携 店舗での円ステーブルコイン決済を検討」 https://coinpost.jp/?p=744095 JPYC株式会社プレスリリース(Unifiでの JPYC 利用開始) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000318.000054018.html innovatopia「LINEで日本円ステーブルコイン『JPYC』利用へ──LINE NEXTと協業検討開始」 https://innovatopia.jp/blockchain/blockchain-news/78046/
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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